『夜は短し恋せよ乙女』、『四畳半神話体系』など、京都を舞台にした青春物語で知られる森見登美彦。青春物語といっても爽やかではなくこじらせ系の登場人物ばかりで、ウィットに富んだ独特の文体にもクセになってしまう人続出の人気作家です。
今回紹介するのは、そんな森見氏が手がけた文豪の名作のリメイク『新釈 走れメロス 他四篇』。中島敦・芥川龍之介・太宰治・坂口安吾・森鴎外の誰もが知るあの作品を、現代の京都に舞台を移して森見流に再起動(リプート)した連作集です。
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それでは、さっそく『新釈 走れメロス 他四篇』を紹介していきましょう。
「新釈 走れメロス 他四篇」はこんな方におススメ!
元の小説を知っていれば「あの作品のあの部分がこんな展開に!」と二倍楽しめるし、知らなくても十二分に面白い。こちらを先に読んでから、元の小説にトライして見比べてみるのもいいでしょう。
- 文豪の作品にまずは気軽に触れてみたい方
- 名作がどんな風にアレンジされるのか興味がある方
- 青春期のこじらせに心当たりがある方
におススメします。
実際の京都の地名や風景が出て来るので、京都好きにもたまりません…
作品の舞台をめぐる京都旅もしてみたいね
わ~それは素敵!いつか行きましょう◎
「新釈 走れメロス 他四篇」のあらすじ
近代文学の傑作と名高い「山月記」(中島敦)、「藪の中」(芥川龍之介)、「走れメロス」(太宰治)、「桜の森の満開の下」(坂口安吾)、「百物語」(森鴎外)の五つの作品が、全く違う魅力をまとって現代の京都に生まれ変わる。
主人公は京都大学の学生たちであり、それぞれの物語は独立していながらも登場人物が重なり合っているため、五作品の全てが連作となっているところも見所です。
それぞれの作品のあらすじを紹介していきましょう。
山月記
京都府警の川端署の巡査である夏目孝弘は、助けを求める学生たちの声に銀閣寺の交番を飛び出した。前年から大文字山界隈で奇怪な現象が起こる噂が広まっていたが、それを屁とも思わず大文字山の火床に立って不埒な「詭弁踊り」を踊り狂おうとした大学の詭弁論部の新入生の一人が、天空より飛来したとてつもなく大きな唾の塊になぎ倒されたのだった。
現場を検証しさらに上も調べようと石段を上がろうとした夏目巡査の耳に、闇の中から「ああ、なぜこんなところにおまえが」という呻き声が届き……。
藪の中
学園祭で上映された学生サークルの映画「屋上」は、上映前から話題になっており当日は長蛇の列もできた。徹底して秘密主義で撮影された映画のラストの接吻シーンには会場がどよめいたが、裏の事情を知っている人間はさぞや撮影中は修羅場があっただったろうと呆れた。内容が、男二人に女一人、密室に近い環境に籠って撮影していて、そのうち二人は付き合っており、残りの一人は元恋人だったからである。
監督である鵜山、その恋人である長谷川、そして長谷川の元恋人である渡邊。それぞれの想いが語られてゆく中、さて撮影中の真相は……。
走れメロス
大学の詭弁論部の中でも、特に変わり者の双璧として有名な芽野と芹名。二人は「世間から忌み嫌われることを意に介さずにのらりくらりと詭弁を弄し続ける」という茨の道をなぜか選び取った物好きたちの集まりである詭弁論部の中でも、たがいに一目を置いている存在だった。
しかし学園祭の当日、詭弁論部は図書館警察の長官によって廃部に追い込まれてしまう。芽野の反抗を受けた長官は「それなら学園祭のフィナーレのステージで、楽団が奏でる『美しく青きドナウ』に合わせてブリーフ一丁で踊れ」という。芽野は了解したが「その前に姉の結婚式に出るため一日だけ猶予をくれ」と言い、人質として芹名を差し出した。そして、友情など信じないという長官に<友情>を見せるため、芽野は校舎を走り出して行くのだった……。
桜の森の満開の下
京都の銀閣寺そばの「哲学の道」沿いに立つアパートに暮らす、陰鬱な顔の<腐れ大学生>である「男」は、誰一人面白いと言ってくれる友人もいないまま小説を書くことに熱中していた。唯一尊敬する同じ大学の斎藤秀太郎に頼み込んで小説を見てもらうが、猛烈な朱書きが返って来るばかり。しかし、その朱書きこそいかにも修行という気分がして、なお一層男は楽しく机に向かい続けるのだった。
そんなある日、男は哲学の道の満開の桜の下で白いコートの女性に出会う。彼女は男の小説を読み、斎藤によって赤い二重線で消された文章こそあなたのいいところだと告げた。やがて付き合い始めた二人。男は女の望みを全てかなえたいと願うようになり……。
百物語
イギリスでの語学研修から帰ったばかりの「私」は、友人のF君に百物語の催しへ誘われて法然院町の屋敷へと足を運んだ。主催者は鹿島といって、学生劇団の主宰として関西では有名な人物であるという。立派な屋敷は彼の親戚の家らしく、「やっぱりあの人はただ者じゃないね」とF君は小さな声で言った。しかし、不思議なことにその場にいる者たちの中には、誰も鹿島と面識のある者はいないのだった。
同じ大学の仲間たちといてもどこか傍観者のように周囲に馴染めないままの私は、百物語の前に出された弁当を食べながら、さいぜんから血走った目をしている男が気にかかっていて……。
「新釈 走れメロス 他四篇」のレビュー
名作を元にしながら、独自の解釈と思わぬ展開で全く新しい物語として楽しめる5つの作品。元の作品を知っていると、「あ、この台詞は…」「この名前は…」「まさかこんな解釈で?」などと、巧妙なリンクぶりにどんどんはまりこんでしまいます。
また元作品を未読の人も、この作品がきっかけで名作を読むようになったという人も多いとか。
個人的には、「藪の中」の三者三様の視点が絶妙で印象深く、また「走れメロス」は文体も太宰治の勢いそのままに駆け出さんばかり。友情とはなんぞや?というテーマを、太宰とは違った面からなるほどと思わせてくれます。
それにしても、全作品を通じてキーマンとして登場している斎藤秀太郎という男。昔のバンカラ学生を絵に描いたような彼のキャラクターの面白さと切なさは、こじらせ経験がある人間にとっては他人事ではありません。
『新釈 走れメロス 他四篇』の文庫本に解説を書いている千野帽子氏はこう指摘しています。
「青春特有の自意識の空回り」、すなわち「自分が見た世界」と「他人が見た世界」の残酷なまでの落差。
「新釈 走れメロス 他四篇」解説より
そう、「学生時代の価値観」と「社会に出てからの価値観」の絶望的な乖離が全編を通して貫かれているところが、森見登美彦の作品の一見コミカルながらも痛烈なところ。
一旦青い夢から覚めてしまったら、二度と同じ狂おしいほどの万能感を得ることはかなわない。
面白く展開していくお話の一方で、常にそんな日暮れのような寂しい旋律が鳴り響いている。
それが本作に感じる私の印象です。
そうそう、千野帽子氏の解説もなんと夏目漱石の「夢十夜」を下敷きにしているという凝った内容です。そちらも本当に見事ですので、ぜひ読んでみてください。
森見登美彦のプロフィール
森見登美彦(もりみ・とみひこ)
1979年、奈良県出身。京都大学大学院在学中の2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞、10年『ペンギン・ハイウェイ』で日本SF大賞、14年『聖なる怠け者の冒険』で第2回京都本大賞、17年『夜行』で第7回広島本大賞を受賞。
「ダ・ヴィンチWEB」森見登美彦より
元の作品を読みたい方はこちらへ
元の名作は、なんと青空文庫で無料で読めます。まだ読んだことのない作品は、この機会に読んでみるのもいいでしょう。
- 「山月記」(中島敦)
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/624_14544.html
- 「藪の中」(芥川龍之介)
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/179_15255.html
- 「走れメロス」(太宰治)
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1567_14913.html
- 「桜の森の満開の下」(坂口安吾)
- https://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42618_21410.html
- 「百物語」(夏目漱石)
- https://www.aozora.gr.jp/cards/000129/files/676_23236.html
いっそう深まる読書タイムをお楽しみあれ
「新釈 走れメロス 他四篇」のまとめ
今回は、森見登美彦がリメイクした『新釈 走れメロス 他四篇』をご紹介しました。
「山月記」(中島敦)、「藪の中」(芥川龍之介)、「走れメロス」(太宰治)、「桜の森の満開の下」(坂口安吾)、「百物語」(森鴎外)の五つの作品を、現代の京都を舞台にまったく新しい物語に再起動(リプート)した連作集。
- 文豪の作品にまずは気軽に触れてみたい方
- 名作がどんな風にレンジされるのか興味ある方
- 青春期のこじらせに心当たりがある方
におススメです。
森見ワールドで新たに生きづいた名作を、じっくり楽しみましょう。
もんどり、もんどりっ!
※こちらの本は、電子書籍が読み放題の「Kindle Unlimited」でも、「聴く読書」として今話題の「Audible(オーディブル」でも聴くことができます。30日間の無料体験があるので、お好きな方でも両方でも、期間中に無料で『新釈 走れメロス 他四篇』を楽しむことができますよ◎
Kindle Unlimited と、Audibleについては下記の記事でも詳しくご紹介しています。合わせてどうぞ。
それではまた次の本でお会いしましょう。
いつも本と一緒。本と いる。
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