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『奇書の世界史』ほか珍書を紹介するおすすめ本3選

奇書の世界史
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<「読書」が趣味です>

そう言われたので趣味が合うねと思ったら、本のジャンルが違いすぎて全く話が続かなかった……。

そんな経験はありませんか?

この世には様々な種類の本が溢れています。

ビジネス書、自己啓発本、専門書、小説、詩、エッセイ、児童書…。

そんな中、どこにも属しがたい奇妙・珍妙なるトンデモ本、いわゆる「奇書」と呼ばれる本が存在することを、あなたはどこまでご存知でしょうか。

usausa

おっと、もの好きが書棚の中からごそごそ引っ張り出して来たね

hontoiru

ふふふ、今日はみなさんをトンでもワールドにお連れしますよ

今回は、知ってびっくり読んでドン引き!

面白くも深い、世界や日本の奇書を紹介した本を3冊厳選してご紹介しましょう。この記事を読み終わった後、きっとあなたも奇書の魅力にとりつかれてしまうはず…!

hontoiru
hontoiru
  • ブログ管理人:hontoiru
  • 編集ディレクターを経て現在はフリーライター
  • 本業では主に飲食系やエンタメ系のライティングを担当
  • 趣味は読書、歴史、カフェ巡りなど
目次

珍書・禁書・偽書…。奇書とは一体どんな本?

奇書の世界史ほか

さて「奇書」とは一体なんでしょうか。

辞書を引くと、「珍しい書物」「ふしぎな本」などと出てきます。具体的な定義はなく、ただ他に類がないような本を「奇書」と呼ぶわけですね。

「奇書」といえば、『ドグラ・マグラ』『虚無への供物』『黒死館殺人事件』の3作品を指して「日本三大奇書」と言ったりしますが、これは推理小説として珍しいトリックや叙述スタイルが使われているといった意味においての「奇書」。

今回ご紹介する「奇書」は、現在ほとんど一般に流通しておらず、あるいは流通するのもはばかられるような、そんなトンデモ要素の高い本のことです。

例えば、生前には作品を一切発表することなく亡くなった人物が残した世界最長の小説や、バカバカしくなるほどの艶笑譚(えんしょうたん/エッチな話)、あやうく歴史を変えるところだった偽の史書、はたまた人の皮を使って装幀された本……などなど。

想像以上にこの世には、様々な種類の奇書が存在しているのです。

ここからは、そんな奇書を豊富に紹介している本を3冊ピックアップし、その中から特に面白いと思われるものを3作品ずつ紹介していきましょう。

『日本の奇書77冊』から

奇書の世界史ほか

『日本の奇書77冊』は、タイトルどおり、日本の古代・中世・近世・近代までの奇書を77冊を紹介し、簡単な解説と共におおまかな内容を掲載した本です。

この本に掲載されているのは、奇書といっても8割、9割が艶笑譚の部類。

私的には「奇書」=「エロ」という図式はあまりにも単純すぎて奇書としての面白味を感じないのですが、しかしこれほど性にまつわる絵巻や書が多く書かれていたというのを初めて知ったときはびっくりしました。

書かれているのが昔の言葉なので難しく感じてしまいますが、内容は

  • 「魔羅を擬人化した滑稽伝(『鉄槌伝』)」
  • 「妖美な男色の世界を描く(『稚児の草紙』)」
  • 「語るもはばかる破礼浄瑠璃(『長枕褥合戦』/これはかの平賀源内先生の著作)」

などで、現代の青年向け漫画と根本はあまり変わらないのではないでしょうか(もちろん史料的価値があることは除き)。

変わらないものが、そこにある…!

そう思うと、歴史がぐっと身近になりますよね。

閑話休題(それはさておき)。

では同書から、特に面白いと思った三冊を紹介していきましょう。

高貴な女性と美男子の密会『小柴垣草子(こしばがきそうし)』

平安時代に書かれたと推測されている絵巻物で、現在残っているのは江戸時代の写本だそう。

時代は寛和元年(985)、処女であるべき斎宮(いつきのみや、あるいはさいぐうとも/天皇の代理として伊勢神宮に仕えるため、皇族女性の中から選ばれた人)が伊勢をめざし出発し、まずは野宮(斎宮が潔斎のため1年間こもる仮の宮殿)に入られたものの、野宮はまだ建築が完成しておらず、未完成の御所に移ることになりました。

前例のないことで、そのためか怪しい火が飛んだり盗賊が忍び入るなど不吉な事件が起こります。翌年、警護をしていた美男の武者・平致光と斎宮が密会したとの風聞が立って、結局伊勢行は急遽とりやめになってしまい……、という『十訓抄』に書かれた物語に基づく絵巻です。

絵巻には、あられもない姿で床下に隠れている男に秘部を舐めさせている斎宮の絵などが描かれています。といっても、『日本の奇書77冊』内にはあまりはっきりとした絵図は掲載されていませんので、小柴垣草紙にご興味がある方は「秘画絵巻 小柴垣草子 (定本・浮世絵春画名品集成)」をご覧になった方がいいと思います。

『日本の奇書77冊』の解説には、「(描かれている絵は)いかにも古雅で、優艶な趣きはあるが、いやらしさは微塵も感じさせない」とあるのですが、どうでしょうか。現代の私たちには馴染のうすい絵柄なだけで、当時の人にとっては十二分に興奮できるエロ画だったのではないでしょうか。そうでなければ、平安時代から熱心に写本が繰り返されているはずはない…なんて思ってしまうのですけれど◎

ちなみに最近復刊された宇能鴻一郎『姫君を喰う話』は、この小柴垣草紙が元になったもの。出だしのホルモン屋のくだりはどぎついですが、平安時代パートに移ると官能的ながら典雅な描写に目がくらみます。こちらも充分、奇書の迫力がある内容です。

奇病に悩む人々をリアルに描いた『病草紙(やまいのそうし)』

平安時代末期から鎌倉初期ごろに描かれたものといわれる絵巻。それが『病草紙』です。

他の人々が眠っている中で一人身を起こしている不眠症の女性、眼病の治療を受けている男性、大きく口をあけて妻に口内を見せている歯周病の男性、妻に笑われながら陰部の毛を剃っている毛じらみの男性などなど、奇病や奇形に悩む人々がリアルに描かれています。

近頃、七条辺りに借上(かりあげ)する女あり。家富み、食豊かなるが故に、身肥え、肉(しし)余りて、行歩容易からず。婢の女、相助くと雖も、汗を流して喘ぐこそ、とてもかくても苦しみ尽きぬものなり。

『日本の奇書77冊』病草子の頁より

これはあまりに太りすぎて両脇から支えてもらわないと歩けない肥満症の女性の絵に添えられている説明文です。

「最近、京都の七条あたりに高利貸しを職業にする女がいた。裕福で食べるものも豊富だったために、体は肥えて肉はたぷたぷ、歩くのも難しいくらい。召使いの女が支えたとしても汗を流して喘ぐのだから、どうしたところで苦しいことに変わりないようだ」というような意味です。

当時の食事風景や、眼病の治療の様子(絵巻では偽医者が針で水晶体をついて失明)が描かれていたり、顔にあざができて他人と付き合うのも支障がでるという貴族女性の嘆きも分かるなど、文化・風習を知るうえで貴重な史料として、国宝にも指定されています。

「病草子」は『国宝の解剖図鑑』の中に詳しく解説されていて面白く読みました。「病草子」については数ページだけですが、国宝全体の解説としてどなたにも読みやすいと思いますので興味ある方におススメしておきます。

お江戸のスター!花咲男が主人公。平賀源内による『放屁論(ほうひろん)』

江戸時代中期に平賀源内によって書かれた『放屁論』。※放屁とはおならのことです。

エレキテルでお馴染みの江戸時代の本草学者にして、蘭学者、医者、作家とマルチに活躍した平賀源内はご存知の方は多いでしょうが、「花咲男」を知っている方は稀でしょう。

「花咲男」とは江戸時代中期の見世物スター。両国でその名を轟かせ、彼の見世物小屋は押すな押すなの見物客で大賑わいしていたとか。

出し物は、「屁」。

へえ?なんだそれはと思った方、本当にあなたが正しいです。屁が出し物ってどんだけうさん臭い話でしょうか。

しかしこれが正真正銘本当の話。

彼はおならで鶏の鳴き声から水車が回る音など、お囃子に合わせて自由自在に屁を鳴らす、曲芸師ならぬ曲屁師だったのです。

そんな実在の人物・花咲男をモデルにして、平賀源内が筆にまかせて面白おかしく書き上げた作品がこの『放屁論』。

論などといっても大した論ではありません。まさに屁づくしの屁のような物語。

花咲男の芸を指して、「大した芸でもないのに放屁ごときで金をとるなど言語道断」という石部金吉(頭の固い人を指す名前)の田舎侍に、平賀源内本人が「たしかにそうかもしれないが、尻の穴一つで金をとるという工夫は見上げたもの。屁威光(閉口)する屁柄物(手柄物)。かえって今の芸人は先人の真似をしているばかりで工夫が足りない。世に志す人、諸芸を学ぶ人は、一心に努めれば天下に鳴らん事屁よりはなはだしい」などと、屁にかけたダジャレ尽くしで持論を語る一冊なのでした。

源内先生は奇抜なことがお好きなだけに見世物にも造詣深く、松茸の形(何の比喩かはお任せ)をした棒をもって浅草寺の境内で毒舌講釈をして人気を博した深井志道軒という、これまた異色の見世物スターをモデルに、彼が日本から世界(もちろんイメージは適当)を旅してまわる完全なる一大ファンタジー小説「風流志道軒伝」という本も出版しています。こちらも大ヒットしたそうですよ。

平賀源内が惚れ込んだ、江戸の見世物については下記の本がイチ押しです。読後は、すっかり江戸の見世物の魅力にはまってしまうことまちがいなし!

¥1,478 (2022/11/22 18:40時点 | Amazon調べ)

そうそう、源内先生は無類の男色家であって、水虎山人というペンネームで「男色細見」なんていう陰間茶屋(男色を売る風俗店)のガイドブックまで書いています。源内の手になるもの、これすべて奇書なり、と言ってもよいのではないでしょうか。とにかく、源内先生、ぶっとばしてます。

『日本の奇書77冊』はどこで買える?

『日本の奇書77冊』には、もっときわどい本もたくさん。というかそればかり。やたらと艶本系が多いためここに記すのもためらわれるほどですので、気になった方はどうぞ同書でご確認ください。

※現在はAmazonで古書としてしか扱っていないようです。

ちなみに同シリーズとして『東洋の奇書55冊』、『世界の奇書101冊』もありますよ

『奇書―日本の名随筆─』から

奇書の世界史

次に奇書を集めた本として紹介するのは、『奇書ー日本の名随筆ー』です。

これは近代~現代までの日本の名随筆を、テーマ別に集大成した全200巻にも上る本邦随筆アンソロジーの金字塔『日本の名随筆』のうちの一冊。「奇書」にまつわる作家たちの随筆(エッセイ)をまとめたものです。

例えば、

  • 澁澤龍彦が古代フランス語で書かれた十三世紀の入手困難本について述べる「動物誌への愛」
  • 種村季弘が稀代の山師・カリオストロも模倣したという錬金術書の作者・フラメルを紹介した「錬金術師らしからぬ錬金術師」
  • 寺山修司が拷問の歴史や拷問する人の心理を紐解く「眠られぬ夜の拷問博物誌」

といったエッセイが集められているのです。

幻想小説、怪奇小説がお好きな方なら、ビビッと来るものがあるかもしれません。

では、この本の中から3冊をピックアップしていきましょう。

江戸の侍はノウハウ知らず!? 切腹のマニュアル本『自刃録(じじんろく)』

江戸時代の研究家として多くの随筆を残した森銑三(もりせんぞう)という人がいます。

この森銑三氏が紹介する奇書。それが、江戸時代は天保十一年(1840)、上州沼田(群馬県沼田市)の武士だった工藤行広が書いた切腹のマニュアル本『自刃録』です。

切腹にもマニュアル本があったなんて!? とびっくりしませんでしたか?

武士は切腹の作法なんて知っていて当たり前。小さい時から練習してるんじゃないの?

そう思われた方も多いと思います。

しかし、江戸時代は太平の世。著者の工藤行広が「近ごろは切腹するにも家中に介錯ができる人がいない。首斬りの請負業者に依頼して何でもかんでも他人任せにしすぎだろ…!」なんて、こんなぼやきを言っているくらい、江戸時代も後期になれば切腹の作法なんて知らない武士がほとんどだったそうです。

工藤行広はこのような武士が何もかも他人任せにしている風潮を嘆いて、とはいえ若い人が血気にまかせてうかつなことをしても仕損ずるだけだからと、「武士として心得置くべき切腹の作法」「検死の作法」「介錯の作法」などを事細かに多くの実例を挙げて、『自刃録』という丁寧なマニュアル本を作りあげたというわけです。

森銑三氏はこの書を読み、こう感じ入ったとか。

(書きぶりから)その態度がいかにも懇篤で、この一書を通しても著者の武士としての心懸けのよさが知られて来るのであるが、その内容からは教へらるゝものが多く、今日の私等が読んでも、参考に資せらるるところが尠(せん)からぬ。

『奇書ー日本の名随筆ー』「切腹の書自刃録」より

「自刃録」は、まず「場所を設る事」から始まります。切腹の場所は座敷にするか庭にするか、その場所はどう用意して畳などはどう敷くか、さらに切腹の申し渡しを行なう際の注意事項、介錯の方法などなどノウハウがぎっしり。細かくはぜひ本書をお読みください。

「自刃録」については、氏家幹人『武士のマニュアル』の中でも紹介されています。読みやすい文章をご希望の方には、こちらをおすすめします。

外国品の輸入が日本を滅亡せしめる?『ランプ亡国論』

幕末から明治期を生きた学僧・佐田介石。

今では知る人も少ない人物ですが、彼は当時は有名で、彼の説く「ランプ亡国論」は大いに世間を賑わしたそうです。

この奇天烈な「ランプ亡国論」とは何かというと、佐田介石オリジナルの経済観から、ランプを筆頭とする外国品の輸入が日本を滅亡させるという論でした。

日本人は自給自足に徹すべし。八百屋が閉業してもいいように一坪の空き地でもあれば汁の実を作れ、魚屋と喧嘩してもへこたれないように裏の溝川でダボハゼでも掬う稽古をしろ、などと、なにやら根性論のような節約術のいきすぎのような、非効率な説のようです。

幕末から明治期にかけては一気に西洋化の波が押し寄せたため、西洋文化に拒否反応を示す人は多かったよう。新しいものが入って来ると、まるで免疫反応のように強く拒絶をしてしまう人が現れます。

後述する『奇書の世界史』の中でも、明治時代には野球というスポーツは日本人には合わない、不健康だといって野球を叩く「野球害毒論」なる激しい論調があったことが紹介されています。

「ランプ亡国論」も「野球害毒論」も今となってはトンデモのように聞こえますが、当時は大きな注目を集めており、信じる人や評価する人もいたとのこと。

現在の「漫画を読むと馬鹿になる」とか「ゲーム脳」「スマホ脳」なんていうのも、後100年経てばすっかりトンデモ論になっているかもしれませんね。

異常? それともロマンチック? 人間の皮で装幀した本

ちょっと異色の「奇書」としては、装幀に関するものがあります。

ズバリ、それは「人間の皮で装幀した本」です。

聞くだけでゾッとしてしまいますが、これは何も「ゴールデンカムイ」に出て来る江渡貝くんのような異常者だけの話ではないのです。※江渡貝くんを知らない人は気を付けてぐぐってくださいね。

堀口大学が書いた随筆「人間の皮」によれば、現存する人間の皮を用いた装幀の最も古い書物は、十八世紀時代のものとか。それ以前のものは、なめし方が不完全だったため、多くは塵(ちり)になってしまって残っていないと考えられているそう。この人間の皮を用いた装幀の書物が、最も多く存在しているのは英国と米国で、主に偏執的な医者や愛好家のコレクションだったといいます。

しかし、エッセイの最後には、病で命がついえる寸前に恋人に自分の皮を贈り、この皮を使ってあなたが次に出す本の装幀にしてほしいと自ら願った女性の話がでてきます。実際に恋人はその通り、彼女の皮をなめして自分の著作の装幀にしたとか。

これをロマンチックで美しいと思うか、グロテスクでゆがんでいると思うか。

受け取り方はきっと人によってさまざまでしょう。

『奇書―日本の名随筆─』はどこで買える?

『奇書―日本の名随筆ー』には、作家や文化人が書いた「奇書」にまつわる随筆が多数収められています。「奇書」そのものの説明よりも、作家たちの目を通した伝説の書を楽しむというニュアンスが強いため、幻想小説や怪奇小説などがお好きな方におススメしたい一冊です。こちらも『日本の奇書77冊』と同じく、古書しか販売されていません。

¥3,324 (2022/11/22 23:07時点 | Amazon調べ)

『奇書の世界史─歴史を動かす”ヤバい書物”の物語─』から

奇書の世界史

『奇書の世界史─歴史を動かす”ヤバい書物”─』は、2019年8月23日に出版された本です。

奇書を紹介している商業出版の本の中では、現在一番新しいのではないでしょうか。

著者の三崎律日さんがニコニコ動画で配信していた動画がもとになっているそうで、2022年11月現在、2冊目『奇書の世界史2』もすでに発売されています。

この本で紹介されている奇書は、主に偽の歴史書だったり、何でもない普通の人が残した作品が死後発表されて注目を集めたり…といった内容で、個人的にビビビと来るものが多かったです。

奇書のその由来を含めての「不思議さ」「わけの分からなさ」を楽しみたいなら、こちらがおススメ(新刊でも買えますし、電子書籍もありますしね)。

では、こちらの中から3冊をピックアップして紹介していきましょう。

ニュートンとも対決!ペテン師がでっちあげた『台湾誌』

1704年に、イギリスのロンドンで出版された『台湾誌』をご存知でしょうか。

著者であるサルマナザールが、幼少期に過ごしたという台湾の歴史や文化、言葉などを詳細に記した書物です。これは貴重な学術書だと知識人たちがこぞって愛読し、フランス語やオランダ語などに翻訳されてヨーロッパ中に広まりました。ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』にまで影響を与えているとか。

しかし、これは完全なデタラメでした。ペテン師・サルマナザールが作り上げた、妄想の産物でしかなかったのです。

面白いのは、サルマナザールはイエズス会派の宣教師たちと交流をもって、彼らから聞いた「日本」の話を手掛かりに、まずは「日本人」と自称するのです。これが彼の経歴詐称の始まりでした。

そして、類は友を呼ぶとはよく言ったもので、一緒に詐欺の片棒を担ぐイネス牧師という人物と出会ったことにより、「イエズス会の人たちも知らない台湾のほうがだましやすくね?」と台湾人を名乗ることにし、どんどん妄想はヒートアップしていきます。

まったくの妄想だけでは流石に頼りないので、イネス牧師はちょいちょい中国や日本に関する文献を集めてはサルマナザールに渡したそうで、『台湾誌』は事実と妄想が入り混じったカオスな文献へとどんどん成長していきました。

いっそファンタジー作家にでもなったらよかったのに、と思うのですが、ペテンの魅力というのはまた違ったところにあるのでしょうね。

しかし、ここに強敵が現れます。なんとそれは、かの物理学者であり天体学者である、アイザック・ニュートン。

こんなところにもニュートン大先生が現れるとは!

さてさて世紀の対決は如何に。サルマナザールの化けの皮は一体どうやってはがれるのでしょうか……!?

と、ここから先は、ぜひ『奇書の世界史』でお楽しみください◎

サルマナザールの『台湾誌』を読んでみたい方はこちらの本をどうぞ。冒頭からペテン師ぶり全開で笑ってしまいます。

18歳から81歳まで書き続けた世界最長の小説『非現実の王国で』

18歳から81歳で没するまで、『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子ども奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の物語』(長っ!)という作品を書き続けた画家・作家がいます。これは現在、「世界最長の小説」だそう。

彼の名は、ヘンリー・ダーガー。

私は美術雑誌で初めて知ったのですが、その独特の絵に一目で好奇心をそそられました。

その絵とは、主人公である少女たちの股間に小さな男性器がついているのです。

そして、ヘンリー・ダーガー自身について知ると、もっと興味がわいてくる。

実は彼は不幸な生い立ちのうえ感情障害をもっており、住み込みの清掃員としてカソリック系の病院を転々とする暮らしを送っていたそうです。その間に書き続けていた作品は、生前に彼が発表することはありませんでした。

晩年、救貧院へ入っていたときに、大家さんが部屋にあった膨大な原稿と挿絵を発見し、ダーガーの死後、彼の部屋をそのまま博物館として作品を保存、公開してくれているのです。

この大家さんが写真家であり、ダーガー作品に芸術性を見出してくれる人でよかった。普通なら、一切合切ゴミとして処分されてしまうところでした。危ない危ない。

ヘンリー・ダーガーの人生の最後になってようやく、私は知ったのだ。足をひきずって歩く、この老人がほんとうは何者なのか。

『奇書の世界史』から「ヘンリー・ダーガー 非現実を生きる」(小出由紀子著、コロナブックス)より引用

これは私の知る話ですが、江戸時代に見世物が大好きで小屋へ見に行っては絵や文で詳細に記録していた小寺玉晁(ぎょくちょう)という人がいます。彼の死後、五十年程経ってからその記録が貴重な史料であるとわかり、研究者が訪ねて行ったところ、隣のおばあさん(小寺玉晁存命時は子ども)が「へえ~あの人がそんな偉い人だったの?」とびっくりしたとか。

案外、あなたの身の回りにもこんな風にひっそりと作品を書き続けている人がいるかもしれません。いや、死後も世にでないままの奇才のほうが多いでしょう。私たちが評価する才能とは上澄みに過ぎず、人間の底深さを感じてしまいます。

ヘンリー・ダーガーの豊富なカラー図版が見たい方はこちらの書籍をどうぞ。

数百にものぼる地域史料がねつ造? 日本最大級の偽文書『椿井文書(つばいもんじょ)』

郷土史が根底から覆されるような、しかも日本最大級とまでいわれる規模の偽文書があります。

それは『椿井文書』と呼ばれる史料群。

中世の地図や、戦に参加した武将のリスト、家系図などなど、その数は近畿一円に数百点にものぼり、日本最大級の偽文書といわれているのです。

それらはすべて、椿井政隆(1770~1837)という人物が作り上げたもの。

『椿井文書』のはじまりは、もともと存在していた「日本輿地通志 畿内部(通称『五畿内志』」という有力史料のあやふやな部分を狙い、そこを補うかのような参考文書をねつ造したことからでした。

知らない歴史家たちが飛びついたために、『椿井文書』は史料としての価値を高め、これを足掛かりとして本格的な偽文書作成へと発展。各地域からの依頼に応えるように、彼らに都合のよい由緒書きや家系図をねつ造していくことに。

ねつ造とはいえ、いやねつ造だから一層(?)、丹念に下調べを行ない依頼人の家にも何度も足を運んで丁寧な仕事をしていたというから、客観的に見るとちょっと笑ってしまいます。

椿井政隆自身、ねつ造しているうちに自分の腕に酔い、さらなるスキルを発揮してよりよいもの(ここではばれない偽書)を作り上げることに夢中になっていたのかもしれませんね。

「ちょっと怪しくても信じたいから信じてしまう」

そんな多くの人間の心理にがっつりはまってしまった偽文書。

いまだに多くの地域の歴史に混入してしまっており、現在進行形で影響を与え続けているそうです。

椿井文書について詳しく知りたい方には、椿井文書研究の第一人者、馬部隆弘氏の『椿井文書─日本最大級の偽文書─』をどうぞ。こちらの本には、椿井政隆が自分の偽書にさりげなく偽書であることが分かる文字を書き入れたりしていることも書いてあります。さらに興味をそそられますよ。

偽の史実がどう受け入れられていくか、興味をもった方には『「江戸しぐさ」の正体』という本もおすすめです。「傘かしげ」や「こぶしうかし」など、少し前に教育現場でもさかんに取り上げられていたものの、架空の江戸史であったとはっきりした「江戸しぐさ」。その否定と、まことしやかに流布していく過程などが徹底検証されています。

『奇書の世界史─歴史を動かす”ヤバい書物”の物語─』はどこで買える?

『奇書の世界史─歴史を動かす”ヤバい書物”の物語─』は、新刊でも電子書籍でも購入可能。いますぐポチって読むことができます。最高にヤバい奇書の世界史を堪能してみましょう。

2巻もすでに登場。こちらにも『ノストラダムスの予言』、『シオン賢者の議定書』、『疫神の詫び証文』などなどヤバオモシロイ本がたくさん紹介されています!

まとめ:『奇書の世界史』ほか珍書を紹介する本3選

奇書の世界史ほか

今回は、『奇書の世界史』ほか珍書を紹介する本3選として、『日本の奇書77冊』、『奇書─日本の名随筆』、『奇書の世界史─歴史を動かす”ヤバい書物”の物語─』の3冊をご紹介。それぞれの本から3冊ずつ、選りすぐりの奇書をピックアップしてご紹介しました。

『日本の奇書77冊』

艶笑譚など性にまつわる日本の古代~近代までの奇書がぎっしり紹介されています

今回は『小柴垣草紙』、『病草紙』、『放屁論』を紹介しました。

『奇書─日本の名随筆─』

作家たちの「奇書」をテーマとしたエッセイを集めた一冊。

今回は『自刃録』、『ランプ亡国論』、『人の皮で装幀した本』を紹介しました。

『奇書の世界史─歴史を動かす”ヤバい書物”の物語─』

世界&日本の偽書や、生前発表されなかった世界最長小説など、由来も興味深い奇書が豊富。

今回は『台湾誌』、『非現実の王国』、『椿井文書』を紹介しました。

めくるめく奇書の世界。あなたの心にビビッときた一冊はありましたか?

たまには、こんな不思議な書物に胸を高鳴らせてみるのもよいですよね。

奇書の魅惑の世界を、少しでもお伝えできていればうれしいです。

▼当ブログではこんな記事も読まれています。

幻想小説やホラー小説がお好きな方へ。

ミステリーがお好きな方へ。

それではまた次の本でお会いしましょう。

いつも本と一緒。本と いる。

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