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宮部みゆきが描く下町時代小説『本所深川ふしぎ草紙』で江戸の七不思議を堪能

宮部みゆきが描く下町時代小説『本所深川ふしぎ草紙』
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「本所深川ふしぎ草紙」は、1992年に吉川英治文学新人賞を受賞した宮部みゆきの時代小説です。

江戸時代に噂された<本所七不思議>(後で紹介します)を元にした、ミステリー仕立ての七つの短編が楽しめるので、時代小説ビギナーの方にもおススメ。七不思議というと怖い怪談?と思ってしまいますが、そうではなくて下町の人情漂う作品ばかり。しかも読後感は切なくも温かみがあります。

主人公はいずれも下町でけなげに生きる人々。舞台設定は江戸時代ながら、現代を生きる私たちにも非常に共感できる内容となっています。

hontoiru

実らない片思いや信じていた人からの裏切り、憧れからの嫉妬など、「ああ、こういうことある!」「こんな気持ち、私も知ってる!」と胸がチクチクすることがたくさんありますよ。

usausa

hontoiruの好きな時代物だね。

hontoiru
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  • ブログ管理人:hontoiru
  • 編集ディレクターを経て現在はフリーライター
  • 本業では主に飲食系やエンタメ系のライティングを担当
  • 趣味は読書、歴史、カフェ巡りなど
目次

「本所深川ふしぎ草紙」はこんな方におススメ!

「本所深川ふしぎ草紙」をおススメしたいのはこんな方です。

  • はじめて時代小説にチャレンジしてみたい方
  • ミステリー仕立ての短編集が読みたい方
  • 切ない恋心や微妙な女心など心情をゆっくり味わいたい方

それぞれ独立した短編なので、空き時間に気になるお話から気軽に読めるところも魅力です。

「本所深川ふしぎ草紙」のあらすじ

「本所深川ふしぎ草紙」宮部みゆき

それでは、本書「本所深川ふしぎ草紙」に収められている七つの短編を、それぞれ一つずつ紹介していきましょう。

「片葉の芦」

近江屋の主人・藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と不仲であった娘のお美津であるとの噂が立つが、幼い頃にお美津に受けた恩が忘れられず、お美津に淡い恋心を抱き続けている職人の彦次は、岡っ引きである回向院の茂吉と共に真相を探っていく……。

「送り提灯」

大野屋で下働きをしているおりんは、店のお嬢さんから自分の恋の成就のため「毎夜丑三つ時に、誰にも見られず回向院の境内まで行き小石を一つ拾ってくる」という百日の願掛けを頼まれる。断り切れず、一人深夜に回向院へ向かうおりんの後を不審な提灯の明かりが付いてきて……。

「置いてけ堀」

今年で二十四になるおしずは、夫の庄太を亡くしていた。庄太は何者かの手で絞め殺され、大川端の百本杭で遺体となって見つかったのだ。落ち込んだままのおしずが働く麦飯屋へ昼飯を食いに来た岡っ引きの茂吉は、客たちと一緒になぜか「岸涯(がんき)小僧」という化け物の噂話を始め……。

「落葉なしの椎」

石原町の絵図にものらない小さな横町で起こった殺しは、落葉のせいで下手人の足跡も分からずお蔵入りになりそうだった。横町に面した小原屋に奉公しているお袖はそれを聞き、落葉の出どころである小原屋の椎の木の下を、落葉一枚ないようにと毎夜掃き清めだしたのだった……。

「馬鹿囃子」

岡っ引きの茂吉の姪であるおとしは、夫婦約束をした宗吉の浮気を疑って茂吉の家へ相談に行った。しかしすでに先客がおり、襖から覗いてみるとそれは知らない若い娘だった。しかもその娘は「上州屋のお仙ちゃんも殺しました」などと物騒な話をしているではないか……。

「足洗い屋敷」

亀戸天神近くの堅実な商いに定評のある料理屋・大野屋。一人娘のおみよは母を流行り病で亡くしたが、父・長兵衛の後妻となった美しく優しい義母・お静にすっかりなついていた。ある夜、悪夢にうなされたお静を心配して慰めたおみよだが、そのうち長兵衛までも夜中に胸苦しさを訴えだし……。

「消えずの行灯」

父親が流行り病で亡くなった後、飯屋に住み込みで働いているおゆうに、ある日男が話を持ちかけて来た。おゆうと同じ年で、小さい頃行方不明になった足袋屋の娘に成りすましてみないかと。探し出した男には百両の礼金が渡り、おゆうも裕福な店のお嬢さんとなる。「ねえ、悪い話じゃねえでしょう?」

登場する岡っ引きとは?

どれも独立したお話ではあるのですが、全編通して「岡っ引きの茂吉」が登場する、という共通項はあります。

岡っ引きとは、江戸時代の町奉行所の同心(役人)に私的に抱えられて、犯罪人の探索や逮捕を担当する者。

簡単に言ってしまえば、警察官がポケットマネーで雇う協力者のことで、時代小説の中ではおよそ探偵のような役割で登場することが多いです。

タイトルがすべて「本所七不思議」となっていますが、ここで「本所七不思議」についても、簡単に説明しておきますね。

題材となった「本所七不思議」とは?

「本所深川ふしぎ草紙」宮部みゆき
hontoiru

そもそも「本所七不思議」ってご存知ですか?

「本所七不思議」とは、江戸時代ごろから伝わっている、江戸は本所近辺で起きるという奇談・怪談のこと。いわば、当時の都市伝説ですね。

  1. 本所のとある堀で釣った魚を持ち帰ろうとすると「置いてけ~」と声が聞こえる「置いてけ堀」
  2. 夜更けに道案内をしてくれるような提灯が現れる「送り提灯」
  3. 相手にされない娘を斬って両国橋駒止橋近くに捨てたことから付近に生える芦は片葉しかつけなくなった「片葉の芦」
  4. どんなに風が吹いても葉が落ちないという本所御蔵橋北にある松浦家上屋敷の「落葉なき椎」
  5. 本所のとある旗本屋敷で夜になると天井から血まみれの巨大な足が現れ「足を洗え」と言う「足洗い屋敷」
  6. 夜になるとどこからともなくお囃子が聞こえて来る「馬鹿囃子」
  7. 誰もいない屋台に点いたままの行灯の火を消そうとすると凶事が起こる「消えずの行灯」

といった噂話が当時から囁かれていたとか。

◎本所七不思議は、江戸時代からの伝承をまとめたものなので、絶対に上記の七つの話と決まっているわけではなく、他に「送り拍子木」「津軽家の太鼓」などもあるそう。全部で九つとしたり、七つの中で入れ替わる場合もあるようです。

「本所深川ふしぎ草紙」のレビュー

どのお話も、最初から「え、どうしたの?」と身を乗り出してしまうような巧みな書き出し。

事件の片りんを少しずつ垣間見ているうちに、やがて大きな転機がおとずれ、バラバラだったピースがピタリとはまっていく。そんなミステリーの短編の面白さが十二分に味わえる作品集です。

また人間心理の描き方、小さな心の揺らぎを丁寧に捕まえてさらりと表現しているところが本当に見事。

例えば、「足洗い屋敷」の主人公おみよは、美しい義母に憧れながら、自分の実母がそこまで美しくなかったこと、そして自分も実母と同じくそう美人でないことに、幼いながらも気づいています。それを宮部氏はこう表現するのです。

「ねえ、あたしのおっかさんと、今のおっかさんと、どっちがきれい?」

おみよが尋ねると、店の者たちは、ちょっと考えるように間を置いてから、「先のお内儀(かみ)さんもそりゃあお綺麗でした。比べることなんざできませんよ」と答える。だが、かれらが一様に「ちょっと考える」ということに、おみよは真実を見ていた。

大人は、何かはっきりと言いにくいことがあると、それを見えない綿にくるんでから口に出すために、ちょっと考えるのだ。

「あたしは今のおっかさんみたいにきれいになれるかしら」

そう尋ねると、今度はみな飛びつくようにして、

「そりゃあもう、お嬢さんもたいへんな器量良しになりますよ」と答える。

その返答の素早さに、おみよはまた別の真実を見る。

『本所深川ふしぎ草紙』「足洗い屋敷」より

さらに江戸時代ならではの庶民の暮らしぶりが分かる描写が素晴らしいです。例えば、「片葉の芦」の主人公・彦次は蕎麦職人ですが、客たちの会話に気をとられながらも、仕事を続ける手際の良さまで伝わってきます。

彦次は仕事を続けた。ぬかりなく手を動かし、熱湯のなかから蕎麦をすくい上げ、面水にあててひきしめる。だが、心は客の話のほうへ傾いていた。

(略)

あの藤兵衛に、念仏が通じるかな……。ふねから新しい蕎麦を一つ二つ、ほぐし入れて、彦次は思った。

『本所深川ふしぎ草紙』「片葉の芦」より

また、「馬鹿囃子」の主人公・おとしが夫婦約束した宗吉の浮気を疑い、やきもちを焼いて「あたし死んじまうから!」と言い捨てて家に帰ったものの、その夜は眠れず、翌日ふらふらと宗吉へ会いにいこうとするところ。

おとしの足は深川へと向かった。

竪川を渡る。うつむきがちに歩く。カッタンカッタンと音がしたので目をあげると、定斎(じょさい)売りが天秤をかついですれちがっていく。声もあげずにただ担いでゆくのは、もう売り物がなくなってしまったからだろう。

『本所深川ふしぎ草紙』「馬鹿囃子」より

※定斎売り……暑気払いの薬を売り歩く行商人のこと。

深い洞察力と、確かな描写力で描かれる、江戸の下町に起こる事件の数々。

辛いだけではない、切ないだけでもない、ほのかな温かさを残す終わり方も印象的です。

それは、全編通して登場する、両国付近をあずかる岡っ引きの茂吉親分の人柄の良さも関係しているのでしょう。

hontoiru

悪人として登場する人物も、実はいろんな過去や事情がある。それがきちんと伝わるところも、読後感の良さにつながっていると思います。

宮部みゆきのプロフィール

宮部みゆき氏といえば、直木賞ほか数々の大きな賞を受賞している超人気作家。作品のジャンルも、現代物から時代物まで幅広く手がけられています。

東京都出身。東京都立墨田川高校卒業。

法律事務所等に勤務の後、87年「我らが隣人の犯罪」でオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビュー。

1992年 「龍は眠る」で第45回日本推理作家協会賞長編部門、同年「本所深川ふしぎ草紙」で第13回吉川英治文学新人賞。

1993年 「火車」で第6回山本周五郎賞。

1997年 「蒲生邸事件」で第18回日本SF大賞。

1999年 「理由」で第120回直木賞。

2001年 「模倣犯」で毎日出版文化賞特別賞、第5回司馬遼太郎賞 、第52回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門をそれぞれ受賞。

2007年 「名もなき毒」で第41回吉川英治文学賞受賞。

2008年 英訳版『BRAVE STORY』でThe Batchelder Award 受賞。

大沢大昌、京極夏彦、宮部みゆき公式ホームページ「大極宮」より

映像化されている作品も多く、まずは映画やドラマから氏の作品に触れるのもいいですね。

「本所深川ふしぎ草紙」紹介のまとめ

「本所深川ふしぎ草紙」は、吉川英治文学新人賞を受賞した宮部みゆきの時代小説。

江戸時代の下町の風情を感じられる描写と、人間の心の揺らぎが切なくも温かく感じられる作品です。

時代小説はあまり読んだことないけれどトライしてみたいなという方や、ミステリー好きな方、切ない恋心や微妙な女心など心情をゆっくり味わいたい方におススメです。

お江戸の七つの不思議話を、ぜひゆっくり味わってみてください。

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それでは、また次の本でお会いしましょう。

いつも本と一緒。本と いる。

宮部みゆきが描く下町時代小説『本所深川ふしぎ草紙』

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