二十年ほど前に、『本当は怖いグリム童話』などの本が流行りました。
実はみんなが子どもの頃に読んだ童話や昔話には、巧妙に隠された残酷性があるのです。人殺しや復讐といった血なまぐささや性的な内容も含む話が、やがて時代の道徳性に合わせて子ども用に教訓めいたところだけピックアップされて変化していっているといえるでしょう。
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しかし、今回ご紹介する本は、そんな誰もが知るもはや人畜無害となった昔話をもう一度再構築して、殺人あり盗みあり推理ありの本格ミステリー仕立てに書き換えてしまうというテクニカルな一冊!
「ええ、『一寸法師』や『鶴の恩返し』がこんな展開に!?」とびっくりしてしまうこと間違いなし。
2019年、本屋大賞や多くの年間ミステリランキングに入り、さらに続編も登場でシリーズ化。とうとう続編が福田監督による映画化も決定、絶賛撮影中という話題作です。
それは、青柳碧人の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』。
さっそく紹介していきましょう。
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』はこんな方におススメ
書店でもひときわ目立つ表紙とタイトル。まずはそれだけでレジへ持って行った人も多そうですね。
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、こんな人におススメです。
- 昔話が好きだったな~と懐かしく思い出した人
- 密室やアリバイなどトリックに興味がある人
- シリーズ続編が映画化決定した話題作を読んでおきたい人
内容は本格ミステリーですが、語り口は昔話そのまま。どなたも読みやすい作品ですヨ!
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のあらすじ
誰もが知る昔話「一寸法師」「花咲か爺さん」「鶴の恩返し」「浦島太郎」「桃太郎」の5作品が、本格ミステリーとなって甦ります。描かれるのは、密室の謎やアリバイ崩し、ダイイングメッセージの真実、そして叙述トリックなど。昔話なのに新しい。新しいのに懐かしい。懐かしいのに裏切られる(!?)快感がたっぷり楽しめます。
叙述トリックとは、読者の先入観を利用して、一部の記述をあいまいにするなどして作者が読者にミスリードを仕掛けるトリックのことです。有名な作品では、アガサ・クリスティーの「アクロイド殺し」があります。
では5作品それぞれのあらすじを紹介します。
「一寸法師の不在証明」
鬼を退治して打出の小づちを手に入れ、立派な青年の姿となってお姫様と婚礼をあげることになった一寸法師。しかし、なんと鬼を退治していた同時刻に起きた殺人の容疑が一寸法師にかかり…?
「花咲か死者伝言」
お城で灰を撒いて花を咲かせた花咲か爺さんは、お殿様から褒美をもらうことに。しかし花咲か爺さんは何者かに殴り殺されてしまうのでした。一体犯人は…? (犬の視点で語られます)
「つるの倒叙がえし」
ある日、弥兵衛の家へ人間の女の姿となった鶴がたずねてくる。「恩返しのために機を織りたいが、その間は決して戸をあけないでほしい」という鶴に、弥兵衛もまた「ではこちらも決して覗かないでくれ」と奥の襖を指さし……。
「密室竜宮城」
助けた亀に連れられて竜宮城を訪れた浦島太郎。乙姫さまの膝枕で寝ているうちに、伊勢海老のおいせが死んだという知らせが。果たして自殺か他殺か? 浦島太郎が探偵となって海の生き物たちから話を聞くことに……。
「絶海の鬼ヶ島」
鬼の視点で語られる「桃太郎伝説」。生き残りの鬼たちが暮らす絶海の鬼ヶ島で、まだ子どもの鬼太は鬼茂と喧嘩をしたことをとがめられお互い別々の場所へ閉じ込められる。しかし翌朝鬼茂は死んで、その容疑は鬼太に……。(今までの総集編ともいうべき作品です!)
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のレビュー
五月女ケイ子氏による表紙イラストがなんとも脱力系(スキ)なのですが、読んでみればまさに本格ミステリー。様々な挑戦がなされていることに気づきます。
単純に面白そう!と思って読んでも楽しいですし、トリック仕掛けが好きなミステリーファンもううむと唸る展開ではないでしょうか。
特に「鶴の恩返し」に仕掛けられた叙述トリックには驚きました。タイトルも「鶴の倒叙返し」となっていて、タイトルからして凝っています。
個人的には「浦島太郎」が探偵になる「密室竜宮城」が、海の生き物たちや竜宮城の雰囲気、そして結末が切なくて心に残りました。まさか……そうか、うん、なるほど……。
巻末の今村昌弘氏の解説でも述べられていますが、推理するにあたっての前提が、みんながお馴染みの「打出の小づち」であったり、「海中の不思議な竜宮城内」であったりするというところも面白いです。いわば魔法を前提としているわけですが、それが昔話の中だけに不自然ではなく当然のこととして受け入れられるのです。
そういった点が、「昔話であること」を十二分に活かしきっている、この作品の素晴らしさだと思いました。
とにかく「てんぐのしゃっくり、ひょっ、ひょっ、ひょっ」が意味不明に不気味すぎてリフレイン…。この言葉は作者の創作なのでしょうか?それとも私が知らない昔話や民話に出て来るのでしょうか?
いやもう、ぜひ読んでみてください。そしてあなたも、ひょっ、ひょっ、ひょっ…………。
青柳碧人のプロフィール
青柳碧人(アオヤギ・アイト)
1980(昭和55)年、千葉県生れ。早稲田大学教育学部卒業。早稲田大学クイズ研究会OB。2009(平成21)年、「浜村渚の計算ノート」で「講談社 Birth」小説部門を受賞し、デビュー。小説執筆だけでなく漫画原作も手がけている。主な著書に「浜村渚の計算ノート」シリーズ、「ヘンたて」シリーズ、「朧月市役所妖怪課」シリーズ、「西川麻子は地理が好き。」シリーズ、「ブタカン!」シリーズ、「彩菊あやかし算法帖」シリーズ、「猫河原家の人びと」シリーズ、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』などがある。
新潮社サイトより
『むかしむかしあるところに、死体がありました。』のまとめ
今回は、青柳碧人『むかしむかしあるところに、死体がありました』を紹介しました。
誰もが知る「一寸法師」「花咲か爺さん」「鶴の恩返し」「浦島太郎」「桃太郎」といった5つの昔話を、本格ミステリーとして再構築した話題作。昔話ならではのお約束を前提としたトリックが秀逸で、読み終わった後もまた読み返して意味を噛みしめたくなる作品でした。
- 昔話が好きだったな~と懐かしく思い出した人
- 密室やアリバイなどトリックに興味がある人
- シリーズ続編が映画化決定した話題作を読んでおきたい人
上記のような人におススメの作品です。
続編の『赤ずきん、道の途中で死体と出会う。』『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』の2作品にも注目。『赤ずきん、道の途中で死体と出会う。』は、NETFLIXで映画化も決定しています。映画も併せて、ぜひチェックしてみてください◎
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続編はこちら↓
それではまた次の本でお会いしましょう。
いつも本と一緒。本と いる。
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